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複素電力に複素共役が用いられる理由をインピーダンスとのアナロジーで解説

投稿日:2020年10月17日 更新日:

今回と次回で複素電力について解説します.

複素電力の定義を見て, 誰もが感じる疑問は「なぜ電流フェーザの複素共役を掛けるのか」でしょう.

「それはそういうものだ」と納得できるならば良し. 納得できないならば「その時」こそが複素数についての理解を深めるチャンスかと.

私自身は「複素電力導出のプロセスが複素インピーダンスと本質的に同じものなんだ」と気付いたことで, 複素電力の理解が深まりました.

是非, 複素電力を導出する気分になって, 複素電力というものを見つめ直してみてください.

瞬時電力

まずは「電力」について復習をします.

直流の電力 $P_D$ は 「電圧 $V_D$ $\times$ 電流 $I_D$」で求めることができ, 単位は ワット $[W] = [V \times A]$ です.

$$ P_D = V_D \times I_D $$

交流においては時刻に依存して電力が変化しますが, とある時刻 $t$ における瞬時の電力 $p_m (t)$ の求め方は直流の場合と同じです. 交流電圧を $v_A (t) $, 交流電流 $i_A (t)$ とすると,

$$ p_m (t) = v_A (t) \times i_A (t) $$

です. 直流回路において電力は常に一定の値となりますが, 交流回路においては瞬時電力が時間に依存して変化します.

直流回路における電力など, 高校レベルの電気回路の内容について怪しい場合は以下をご参照ください.

交流理論のための直流回路基礎

実効電力

交流の瞬時電力は常に変化しますが, 「1時間にどのくらいの電力量を消費するのか」を知りたい場合には, 瞬間ごとの電力は必要なく「平均の電力消費」さえ分かれば十分です.

以下では, 瞬時電力から出発し, 平均の電力 = 実効電力を求めていきます.

電圧実効値を $V$, 電流実効値を $I$, 角周波数を $\omega$, 電圧初期位相を $\phi _v$, 電流初期位相を $\phi _i$ を置くと,

交流電圧を $v_A (t) = \sqrt{2} \, V \, \sin ( \omega t + \phi _v) $, 交流電流を $i_A (t) = \sqrt{2} \, I \, \sin ( \omega t + \phi _i) $ と表せます.

上記の電圧, 電流の式を使って, 瞬時電力を書き換え, 三角関数の加法定理を使って整理すると,

\begin{eqnarray} p_m (t) &=& 2 V I \, \sin ( \omega t + \phi _v) \, \sin ( \omega t + \phi _i) \\ \rm{ } \\ &=& V I \left\{ \cos(2 \omega t + \phi _v + \phi _i) + \cos(\phi _v – \phi _i) \right\} \end{eqnarray}

となり, 周期 $T = \pi / \omega$ の周期関数になります.

1周期分の電力量を計算(電力を1周期分の時間で積分)し, 周期で割ると平均電力 $P_A$ が求められます.

\begin{eqnarray} P_A &=& \frac{1}{\pi / \omega} \int_{0}^{\pi / \omega} p(t) dt \\ \rm{ } \\ &=& \frac{\omega}{\pi} \cdot V I \int_{0}^{\pi / \omega} \left\{ \cos (2 \omega t + \phi _v + \phi _i) + \cos (\phi _{v} \, – \, \phi _{i}) \right\} \, dt \\ \rm{ } \\ &=& \frac{\omega}{\pi} \cdot V I \, \left[ \, t \, \cos (\phi _v \, – \, \phi _i) \right]_{ \; 0}^{ \; \pi / \omega} \\ \rm{ } \\ &=& V I \, \cos (\phi _v – \phi _i) \end{eqnarray}

複素電力

ここから複素電力について解説します.

まず, 複素電力の定義を述べ, その次に多くの人が躓く「なぜ複素共役を掛けるのか」について解説を試みます.

「複素共役を掛ける理由」を考える上で重要なのは, 以下の3点です.

・フェーザとは何か?
・フェーザの役割
・複素インピーダンスとのアナロジー

順番に見ていきます.

複素電力とは

複素電力 $p$ とは 「電圧フェーザ : $v = V \, e^{ \, j \, (\omega t + \phi _v )}$」 と 「電流フェーザの複素共役 : $i^* = I \, e^{ \, -j \, (\omega t + \phi _v )}$ 」の積で表されます.

$$ p = v \cdot i^* $$

ここで注意ですが, 今回の $v$ と $i$ は「実効値 $\times \, e^{ \, j \, (\omega t + \phi _v )}$ 」のフェーザです.

上式が複素電力の定義なのですが, この定義を眺めて感じる疑問は,

  1. なぜ「電流フェーザの複素共役」を掛けるのか ?
  2. 複素電力が何の役に立つのか ?

という2点でしょう.

「複素電力が何の役に立つのか ?」については次回解説するとして, 今回やっていくのは「電流フェーザの『複素共役』を掛ける理由」です.

この理由を解説するにあたって必要なので, 「フェーザ表示」と「複素インピーダンス」について復習します.

フェーザ表示についての復習

フェーザ表示とは, 「波を複素指数関数で表示する形式」を指します.

交流電流が $i_A (t) = I_0 \, \sin( \omega t + \phi _i) $ と表されるとき, 電流フェーザ $i$ は以下のように表されます.

\begin{eqnarray} i &=& I \, e^{j \omega t } \cdot e^{j \phi _i } \\ \rm{ } \\ &=& I \left\{ \cos (\omega t + \phi _i) +j \, \sin (\omega t + \phi _i) \right\} \end{eqnarray}

「電流フェーザ」は「実数の交流電流」と「同じ波」を表していますが, 「電流フェーザ」と「実数で表された交流電流」は同じものではありません.

$$ i (t) \neq i_A (t) $$

ただし, 「電流フェーザの虚部 $\times \, \sqrt{2}$」と「実数で表された交流電流」は同じものです.

$$ \sqrt{2} I_m \, \left( \, i \, \right) = i_A $$

複素数による正弦波のフェーザ表示

フェーザの役割

フェーザは「計算を簡単にするため」に用いられます.

フェーザ表示された式に特徴的なのは「微分・積分によって式の形が変化しない」ということです.

コイル, キャパシタを通過する電流波形は印加される電圧に対し, 微分, もしくは積分された形になります. コイルやキャパシタを扱う交流回路において, 微分・積分で式の形が変化しない電流フェーザは大変便利です.

また, フェーザを使うことで(時刻に依存しない)複素インピーダンス $Z$ の導出が可能となります.

交流電流と交流電圧を関係付ける「インピーダンス」という物理量は「実数の電流と電圧」を用いている限り, 式の中から「時刻 $t$」を除去することができません.

しかし, フェーザ表示を使うことによって上手い具合に時刻 $t$ を消去することができます. その様子をご覧ください.

\begin{eqnarray} Z &=& v / i \\ \rm{ } \\ &=& \frac{V_0 \, e^{j \omega t} \, \cdot \, e^{j \phi _v} }{I_0 \, e^{j \omega t} \, \cdot \, e^{j \phi _i} } \\ \rm{ } \\ &=& \frac{V_0}{I_0} \, \cdot \, e^{j ( \phi_v \, – \, \phi _i )} \end{eqnarray}

時刻 $t$ を消去できるのは, 電流と電圧の角周波数 $\omega$ が等しい場合に限ります. 通過することで電流と電圧の角速度が変わってしまうような素子(トランジスタやダイオード)においては複素インピーダンスを使う意味はあまり無いということです.

複素電力において「なぜ電流フェーザの複素共役を掛けるのか」という問いには, フェーザを導入する2つ目の理由である「時刻を消去できる」という部分が関係します.

フェーザ表示の活用:複素インピーダンス

複素電力に複素共役を用いる理由(インピーダンスとのアナロジー)

上記の通り, 電流フェーザと実数で表された交流電流は全くの別物です. 「電流フェーザ」や「複素インピーダンス」なる物理量はそもそも現実世界には存在しないのですが, 「そう考えると便利だから」という理由で導入されました.

「複素電力」も同じです. 複素電力とは「交流回路の電力を考えやすくする」という理由で導入された現実には存在しない物理量です. 単位が「ワット」になり, 交流回路の電力計算が簡単になるのなら, どのような形をしていても問題ないのです.

ただ, 電圧フェーザに掛ける電流フェーザを複素共役にすると, 複素電力を考える上でとても良いことが起きます.

複素電力の中の 時刻 $t$ が消えるのです.

\begin{eqnarray} v \times i^* &=& ( \, V \, e^{j \omega t} \, \cdot \, e^{j \phi _v} \, ) \, \times \, ( \, I \, e^{- j \omega t} \, \cdot \, e^{- j \phi _i} \, ) \\ \rm{ } \\ &=& V \, I \cdot e^{j (\phi _v \, – \, \phi _i )} \end{eqnarray}

複素共役を取らない場合, 「電圧フェーザ $\times$ 電流フェーザ」は時刻に依存します.

\begin{eqnarray} v \times i &=& ( \, V \, e^{j \omega t} \, \cdot \, e^{j \phi _v} \, ) \, \times \, ( \, I \, e^{j \omega t} \, \cdot \, e^{j \phi _i} \, ) \\ \rm{ } \\ &=& V \, I \cdot e^{2j \omega t} \cdot e^{j (\phi _v \, + \, \phi _i )} \end{eqnarray}

「電流フェーザを $ I_m \cdot e^{- (j \omega t + j \phi )} $ にすることで, 複素電力の中の時刻を消去できる」ため, 複素共役が用いられているのです.

まとめ

「複素共役を使う理由」を一言で説明すれば「複素共役を使うと時刻を消去できるから」ということになります.

複素『電力』という名前なので現実世界と対応する概念を考えてしまいますが, 複素電力なる物理量は現実世界には存在しません. 計算を便利にするために電力を複素数に拡張した概念が複素電力なのです.

筆者は, 上記複素電力の定義について, 「複素インピーダンスとのアナロジーで考えると分かりやすい」と感じています. 何かの理解に努めるとき「ここでやっていることは, 本質的には~と同じだ」と気付くと理解が簡単です.

物理を学ぶときに「アナロジー」で理解することはとても大切かと.

次回は「複素電力を考えると何が便利になるのか」ということについて考えていきます.

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