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複素電力とは?複素電力の使い方

投稿日:2020年10月23日 更新日:

前回インピーダンスとのアナロジーを使って, 複素電力の定義に「電流フェーザの複素共役」が現れる理由を解説しました.

今回は複素電力に関係する用語(実効電力, 無効電力, 皮相電力)に触れつつ, 複素電力が何の役に立つのかを解説します.

復習:複素電力とは?

最初に複素電力とは何か?について復習していきます.

複素電力 $p$ とは「電圧フェーザ $v$」と「電流フェーザの複素共役 $i^*$」 の積です.

$$ p = v \, \times \, i^* $$

「なぜ複素共役を掛けるのか?」について詳しくは以下の記事で解説しています.

$V$ を電圧実効値, $I$ を電流実効値, $\phi$ を電圧の位相, $\theta$ を電流と電圧の位相差とすれば,

電圧フェーザ, 電流フェーザをそれぞれ $v = V \, e^{ – j \phi}$, $i = I \, e^{ -j \, ( \phi + \theta )}$ と表すことができます.

これらを用いて複素電力を書き換えると,

\begin{eqnarray} p &=& (V \, e^{ – j \phi}) \, \cdot \, (I \, e^{ \, j \, ( \phi + \theta )}) \\ \rm{ } \\ &=& V \, I \, e^{j \theta} \\ \rm{ } \\ &=& V \, I \, \left( \cos{ \theta } + j \, \sin{ \theta } \right) \end{eqnarray}

となります.

複素電力に関する用語

複素電力の実部, 虚部, 絶対値にはそれぞれ名前が付けられています.

$ \mathrm{Re} \, (p) = V \, I \, \cos{ \theta }$:実効電力
$ \mathrm{Im} \, (p) = V \, I \, \sin{ \theta }$:無効電力
$| \, p \, | = V \, I $:皮相電力

また, 位相差の余弦($\, \cos{\theta} \, $)を「力率」と呼びます.

実効電力とは「瞬時電力を1周期 $T$ に渡って平均した電力」のことでした. つまり, 「複素電力の実部」と「瞬時電力の平均値」は同じ値になります.

$$ \mathrm{Re} \, (p) = 1/T \, \cdot \, \int_{0}^{T} V \, \sin (- \phi) \, \cdot \, I \, \sin (- \phi \, – \theta ) dt $$

複素平面で眺める複素電力

実効電力や無効電力などの電力と複素電力の関係は複素平面上で眺めると大変分かりやすくなります. 下図をご覧ください.

図1 複素平面上の複素電力

複素電力を複素平面上の点Pの座標とし, 「原点O」, 「点P」, 「点Pから実軸に降ろした垂線の足 H」の3点で囲まれる直角三角形を考えれば,

辺OHの長さ = 実効電力
辺PHの長さ = 無効電力
斜辺OPの長さ = 皮相電力
角POH = 位相差

になります.

複素電力の使い方

それぞれの電力と複素電力の関係を把握出来ましたら, 次は各電力の物理的意味を考えていきます.

複素電力自体は現実世界に存在せず, その物理的意味を考えることにあまり意味はありませんが, 複素電力から1次元落とした「実効電力」や「無効電力」は現実世界と関係を持つ, 意味ある物理定数です.

実効電力

実効電力は「負荷で消費される電力」に対応します. つまり, 「1秒間に消費される電気エネルギー」です. 消費される電力は不可逆的に光になったり, 音になったりし, 大部分は熱になります.

ご家庭の電気料金を決めるのは, この実効電力です.

実効電力はイメージしやすいのですが, 一般に馴染みが無いのが次の無効電力です.

無効電力

無効電力は, 実効電力とは対照的に「負荷で消費されない電力」です.

回路に純抵抗($R$)しか接続されていない場合, 交流電圧を印加しても無効電力は生じません. 無効電力が生じるのはコイルやキャパシタが回路に接続されている場合です.

無効電力が生じる場合の例として, コイルに交流を印加する状態を考えます.

コイルに流れる電流が増加すると, 電磁誘導によってコイルに磁界が生じます. ここでは「電気エネルギー」が「磁界エネルギー」になるわけですが, 電流が減少に転じると「磁界のエネルギー」は徐々に「電気のエネルギー」に姿を変え, 最終的に「磁界エネルギー」は無くなります.

交流回路の中では「電気 → 磁界 → 電気 → $\cdots$」というエネルギーの転換が連続的に起きているわけです. そして, 磁界エネルギーから変化した電気エネルギーは電源へと戻っていきます.

無効電力は電源から出て電源へ戻るため足し引きゼロとなり負荷で消費されないのですが, 回路を動作させるためには必要な電力です.

また, 太陽電池発電などでは, 電力系統の電圧を一定に保つため, 敢えて無効電力を系統に注入することがあります. 力率や無効電力は発電や電力制御において重要となる概念です.

皮相電力

有効電力と無効電力を足し合わせたものが皮相電力です. ただし位相が直交する2つの電力のベクトルの和になります.

物理的には「電源から出ていく合計の電力」ということになるかと. その中には「電源に戻ってくる電力(無効電力)」も含まれます.

「皮相」は「真相」の対義語で「見かけ上の」という意味です. 英語の apparent power を直訳した結果ですね.

まとめ

今回は, 複素電力とは何か?複素電力は何の役に立つのか?について解説して参りました.

複素数を物理と絡めると途端に理解が難解になります. 現実とは直接関係の無い概念で, 且つ理解も難しくなるのになぜ『複素電力』は使われるのか?

それは「便利だから」です.

どの分野でも複素数が使われる理由は変わりません.

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