Imaginary Dive!!

複素数, 研究, 科学について

Imagine on desk

【図説:シン・ヱヴァンゲリヲン劇場版】 その壱 エヴァと特撮とウルトラマン

投稿日:

2021年3月, 新劇場版の最終話が公開され, 7月の劇場公開終了にて幕を閉じたエヴァンゲリオンシリーズ. 過去全てのシリーズを観てきた私としましても, 初めて劇場で観たときは何がなんだかサッパリでした. その後, 岡田斗司夫さんの解説を聞いて自分の中である程度整理がつきましたが, 未だ分からないことも幾つか. 一先ず小松先生の作品や, 過去に庵野監督が関わった作品を視聴しています.

虚数を主に扱ってきた本サイトですが, 虚構(アニメ)を扱うのも一興かと思いまして, 自分の中の情報整理のためにもエヴァの内容を語ってみようと思います.

解説というほど大それたものではありません. 広く公開するに耐えるものを作る過程で, 自分自身の考えの整理が進むことを目的としております.

エヴァとは何か?

少年少女がロボットに乗り, 『使徒』と呼ばれる巨大生物と戦う. エヴァンゲリオンの基本構成です.

後半でエヴァがロボットではなく人造人間だと分かったり, 全人類を生まれ変わらせようとする大規模な計画(人類補完計画)が明らかになったりして, 多くの伏線が回収されないままTVシリーズは終了します.

謎の多いストーリーが観客を引きつけ, 放送終了後にも多くのファンを生みました. 私は再放送でしか観てないので, 当時の熱狂は分かりかねますが, 普段アニメを観ない人にまで波及したとか.

私が初めてエヴァを観たのは中2ぐらい. 最終話付近で「なぜ生きるのか?」「生きていていいのか?」という主人公の葛藤に痛く共感し, 観る人の内面に訴えかけるアニメという印象を抱きました.

しかし, こうした内面への訴えかけは監督である庵野秀明にとって, 特段重要ではなかったようです. 後にテレビのインタビューに応えたアンノは「哲学ではなく衒学(げんがく)的」と評しています [1]. 「知ったかぶりという表現が一番近い」とも.

最終話付近の内面描写は観客に「何かあるのかな?」と惹きつけるだけ惹きつける装置で, 当時中2だった私はその罠に頭から嵌ったということのようです.

であるならば, エヴァの凄さとは一体何なのでしょうか?エヴァで庵野秀明がやりたかったこととは?私たちがエヴァのカッコよさに惹かれる理由は何なのでしょう?

多次元立体に切断面を

例えば「この世界の片隅に(2016)」という作品の凄さは, 監督がインタビューで語っている通り, 徹底的な「リアリティの追求 [2]」によって, すずさんが実際にいたことを観客に信じさせたことでした. 当時の広島市や呉市についての膨大な文献調査や細かな動きの表現によって, デフォルメされたキャラクターとは思えないリアリティが醸し出されます. これが, 戦時の生活感, 空気感を(それが虚構であったとしても)感じられる理由です.

「機動戦士ガンダム(1979)」は最初から完全無欠のヒーローを描くのではなく, 苦悩や葛藤を通して成長し, 大人になっていく主人公をアニメーションで描いたことで, 後のアニメの在り方を大きく変えました. 子供向けだったアニメは徐々にターゲットを絞り, 大人向けのものも登場するようになりました. 後から見ればそういう分岐点となる作品だったわけです.

一点注意しておかなければなりませんが, こうやって作品にラベルを貼る作業は, それ以外の可能性を排除し, 考えを狭めるものです. アニメには沢山の楽しみ方がありますし, 受け取り手によって異なる視点があることは当然でしょう. 作品と受け手の相互作用で完成するのが映画だという考え方は広く受け入れられています.

しかし, エヴァはとにかく難解で議論が発散しすぎているように思います. 誰もが自分の中にエヴァ観を持っており, そのエヴァ観を通してしかエヴァを語らない. そして多くの場合, 個々人のエヴァ観は監督が意図したものではありません(あるいは敢えて間違った方向に誘導されている). それもこれも, 特撮やSFファン以外の人にとってエヴァの文法が難解過ぎることが原因です.

一応数学とか電気とかに関する記事を上げてきたので, ここで敢えて数学っぽい言葉を使うとするならば, エヴァは中身が空洞であるにも関わらず次元が高いため(高尚という意味ではない), もう少し次元を落とさないと理解が困難なのでしょう. 人間には4次元以上の立体を感じることができません. エヴァという多次元立体の断面を切り取って, せめて3次元くらいの立体にしないと, 全体の構造が掴めません. 今からやっていくのは, そうした断面切り出し作業です.

エヴァの表面だけを眺めるのではなく, 切り口を作って, そこからエヴァの内側を覗いてみようというわけです. これを全4回に渡ってやっていきます.

初回は「特撮」という切り口でやっていきます. 第2回は「プレヴィズ」, 第3回は「シーン優先」, 第4回は「おまじない」という観点でそれぞれエヴァを切り取ってみる予定です.

特撮技術とエヴァ

今回挿し込むメスの名前は「特撮」です.

本稿の読者はそもそも「特撮」という言葉を … ご存じでしょうか?

特撮とは?

昭和生まれの方は知っていて当然でしょうが, 平成生まれの人々では怪しくなって参ります. 今10代の方々はほぼ知らない言葉でしょう(妙齢のおじ様方は悲しむかもしれません).

読んで字の如く「特撮」とは特殊な撮影技術や, 特殊撮影技術を用いた作品を指します.

具体的, かつ端的に分かりやすい例が「ゴジラ」です. 近年ハリウッドで公開されているゴジラはすべてCGですが, オリジナルのゴジラは実物そっくりの模型と着ぐるみ, さらに縮尺の誤認を利用した特撮映画でした. まだ特撮映画に馴染みのなかった日本の観客にゴジラは衝撃を与えます. 当時の人々はゴジラが着ぐるみであることが分からなかったのです.

他にも, フィルムを早回しにして高速に動いているように見せたり, 逆にスローにして重力の小さな場所を移動しているように見せたりするなど, 特撮の工夫とその効果は多岐に渡ります. これを語り出すとキリがないですし, 私も詳しく知りません. そのあたりはGoogle先生に一任し, ここで話すのは特撮とエヴァにどういう関係があるのか, ということです.

何せエヴァはアニメです. 大きなものを描きたければ, 大きなものを描けばいい. ゆっくり動かしたければ, コマ割り枚数を増やせば良いのです. 一見すると特撮技術を利用する理由は見当たりません.

エヴァの絵作り

特撮とエヴァとの関係については, 特撮について詳しくない私よりも実際のエヴァの画面の方が雄弁です. 旧劇場版エヴァのワンシーンをご覧ください.

図1. 旧劇場版 Eva vs Eva series

手前に巨大な建造物(橋や車), 背景は山とジオフロントの側面, その間にある森と湖の上でエヴァが戦っています.

まず注目したいのは画面手前にある巨大建造物の細かな描き込みです. 道路の汚れや錆, 破損が細かく描き込まれ, 大変リアルに見えます. それに比べれば, 実際に動いているエヴァやエヴァシリーズはそこまで細かく描かれていません. 背景も同様です.

ここに怪獣特撮映画で培われた構図の技術が表れています.

怪獣は所詮「着ぐるみ」です. 近くで見ればそれが虚構であることは一目瞭然で, それをあたかも現実に存在するように見せなければなりません. ではどうやってリアルに見せるのか?特撮映画監督が辿り着いたのが, 「手前のミニチュアのリアリティで画面全体のリアリティを牽引する」という方法です.

手前に配置され, 精密に作り込まれた巨大建造物や乗り物のミニチュアは, 怪獣までもリアルに見せることが可能になります. この技法は, 日本特撮映画の大ファンであるデル・トロ監督が作った「パシフィック・リム(2013)」など, 海外怪獣映画にも使われています.

図2. KAIJUの衝突によって揺れる橋や自動車が落下する様子をCGでリアルに描くことによって, 非現実的なKAIJUまでがリアルに見える

こうした構図の技術は撮影コストの大幅な低減にも寄与しています. 画面の中に存在するすべてを正確なミニチュアで作るには大変なコストが必要です. しかし, 上述の画面作りであれば, 正確に作らなければならないのは手前のミニチュアセットだけです.

これはアニメでも同様です. 動いている絵を一枚一枚精密に描くには恐ろしいほどの時間と人的コストが必要です. しかし, 図1のような構図であれば, 重たい武器を持って極端な慣性が掛かっている特殊なアクションであっても, 絵自体の精度を落として描くことができるので, 動きに集中することができ, 作画コストを低減できます.

構図の工夫は予算と時間が限られている日本映画の中であったからこそ生まれた技術でした.

画面をもたせる工夫

手前に巨大なミニチュアを置き, メインの絵を遠くに小さく見せる, という構図は怪獣が暴れるシーンだけで使われるわけではありません. 続いてのシーンをご覧ください.

図3. 中身のない会議

エヴァに登場する偉い人達の会議を描いたTV版のワンシーンですが, この会議は大変中身がないことでも有名です.

このシーンの目的は, エヴァと使徒の戦いの裏側に存在する「人類補完計画」なる陰謀を示すことです. よって, 会話にほとんど意味はありません. しかし, 観客はもの凄いことを喋っているように感じてしまいます. その効果を生み出しているのが前述の構図です.

手前に人の体の一部を大写しにし, 実際に口を開いている人は小さく描かれます. こうした構図は画面に緊迫感を生み, 視聴者に「何か凄いことを話している」と誤解させます.

中身のない会議室のシーンを長時間見せられると観客は退屈してしまします. 庵野監督は細かなカットの切り替えや, 上述の特殊な構図によって画面を「もたせて」いるのです.

アニメならではの表現

庵野監督は特撮で培われた構図の技術をアニメに流用するだけでなく, これを進化させたアニメ独自の構図を作り出しました. それが「極端なパース(透視図法)」です.

TV版OPのワンシーンをご覧ください.

図4. ディスプレイに近すぎるカメラ

ここで描かれているのはエヴァの神経接続表示です. 下から上に向かって赤のパネルが緑に反転しています.

劇中では一瞬映されるだけですが, よく見れば不自然な構図になっていることが分かります.

普段私たちが眺めるようにディスプレイを真正面から見ただけでは, こうは見えません. ディスプレイに映った台形は実際には長方形であり, その長方形が図4のように斜めに見えるためには, 極端にディスプレイに近づいて, 上からディスプレイを見下す必要があります.

実際にやってみれば分かる通り, そのようにディスプレイを眺めると, ピントが合わずにどこかがぼやけて見えることでしょう. つまり, 図4は現実にはありえない絵なのです.

しかし, このように不自然なカメラ位置から眺めることで, 緑色の表示が画面奥から手前に近づいてくるような躍動感が生まれます. これも手前に物を置くことと同様に, 画面の緊迫感を高めて観客を飽きさせない工夫の一つですが, アニメ独自の表現方法です.

庵野監督は自身に影響を与えた作品へのリスペクトを表現してきましたが, それらを進化させ, 新しいものを作り出してきました.

ウルトラマンとエヴァ

画面構成が特撮的なのは偶然では?と思うかもしれません. カッコイイ絵を追求することで, 自然と行き着いただけだと. しかし, 庵野監督の来歴や自身で語っているインタビューの内容を見れば, 特撮映画に大きな影響を受けたことに疑いの余地はありません.

大学時代には「帰ってきたウルトラマン」を監督し, 自身でウルトラマンを演じるほどウルトラマン好きであることは有名な話.

エヴァは巨大生物と戦う人型兵器です. 充電器に繋がれていますが, 充電器と切り離されると内臓バッテリーは3分しかもちません. この辺りは「ウルトラマン」の設定と類似点が幾つも見つかります. 画面構成のみならず, ストーリーや設定にもウルトラマンの影響は表れていることが分かるかと.

しかし, エヴァ制作にあたって, 意識してウルトラマンを引用したわけではなかったようです [3].

友人から「あれってウルトラマンがロボットの恰好をしているものだよな?」と聞かれて, 自分自身でも初めて気づいたと語っています. それほどまでにウルトラマンに大きな影響を受け, 特撮の魂が体に刻まれていたということでしょう.

まとめ

冒頭の「エヴァとは何か?」という問いに対して私なりに答えを出すならば, 「特撮技術を巧みに取り入れ, 面白くてカッコいい絵作りに挑戦したアニメ」と言えるかと. 「なぜカッコいいのか?」という問いにも同様に答えることができます. それは「特撮だから」です.

庵野監督の絵作りへの挑戦は絶えることなく, TVシリーズ以降も新たな技術を取り込み続けました. そうした挑戦が結実したものが「シン・ヱヴァンゲリヲン劇場版」です.

次回は, ついにシン・ヱヴァンゲリヲン劇場版に入りまして, そこで用いられた映像技術, 「プレヴィズ」についてまとめていきたいと思います.

[1] トップランナー(2004年5月9日放送, NHK)
[2] この世界の片隅に【映画】 (https://konosekai.jp/)
[3] 庵野監督のインタビュー記事(https://trendnews.yahoo.co.jp/archives/445177/)

-Imagine on desk
-, ,

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

図の下にキャプションの理由を僕たちはまだ知らない

論文などのちゃんとした文章には図や表の周辺に説明文(キャプション)を添えますが, キャプションの入れ方には決まりがあります. キャプションは「図であれば図の下」, 「表であれば表の上に入れる」のが決ま …

論文と比較して特許とは何かを考える会

最近お仕事で特許検索ツールをよく使います. これまで論文しか読んでこなかった者として, 特許というのは無機質で平坦で面白味に欠けるものだと決めつけていたことは事実であり, 特許を避けてきました. 無機 …

陰キャ・陽キャの定義に関する提案

陰キャ・陽キャという言葉が使われ出したのはいつ頃だったか, 最早思い出せないほど当たり前の言葉になりました. 学術の世界では定義のはっきりしない言葉を使うと相手を不快にさせてしまうのですが, 「陰キャ …

世はまさに大副業時代!! Lancers を使った副業のメリットと注意点について

コロナパンデミック, 年金制度崩壊や国内の法改正など, 様々な事象が追い風となり, 副業の重要性は高まるばかり. 副業と言っても様々ですが, 手軽に始められる方法としては, 私も使っている Lance …

酒は飲んでも『健康科学』に呑まれるな

「酒は飲んでも呑まれるな」 社会人の常識ですね. 筆者としましては, 「酒は飲んでも『健康科学』に呑まれるな」を新たな常識にしていきたいところ. ここでは飲酒と健康についての近年の研究結果をまとめ, …