複素指数関数の定義を考え、オイラーの公式を導出 (証明)する
オイラーの公式の導出 (証明)をやります.
$$ e^{i \theta} = \cos{\theta} + i \sin{\theta} $$
オイラーの公式について理解するため, 「指数関数とは何か」というところから始めましょう.
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指数, 三角関数の定義
中学高校では, 「\( e^x \) とは, \( e \) を \( x \) 回掛ける関数」だと習いました.
もちろんこれは間違いではないのですが, 指数関数の一部を表しているに過ぎません. また, これでは「指数関数の複素数乗」というものを考えることができません.
そこで, 複素数を扱えるように, 指数関数を再定義していきます.
指数関数
指数関数を以下のように定義します.
$$ e^x = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{x^n}{n!} = 1 + x + \frac{x^2}{2!} + \frac{x^3}{3!} + \frac{x^4}{4!} + \cdots $$
この定義にはマクローリン展開が使われています. このように指数関数を定義すると, 指数関数は単なる多項式の無限級数和になります.
もちろん, 歴史的に, 最初からこの定義があったわけではありません. 指数関数が既に存在している世界で, 「指数関数って何だろう」と考えた人がマクローリン展開を使って, 指数関数を定義し直しました.
上記の定義においても, 当たり前ですが, 関数として出力される値は変わりません.
試しに \( x=0 \) を代入すれば,
$$ e^0 = 1 $$
となりますし, 微分してみると,
$$ ( e^x )’ = 0 + 1 + \frac{2x}{2!} + \frac{3x^2}{3!} + \cdots = e^x $$
となっており, 私たちの良く知る指数関数と同じものであることが分かります.
三角関数
続いて三角関数の定義についても考えます.
三角関数は「直角三角形の鋭角の角度を変数とし, 2辺の比を返り値とする関数」で, これが定義でした.
しかし, この定義は幾何学を土台とするものであり, 三角関数を関数として考え, 他の関数との関係を考える上では使いづらいので, こちらも定義を改めましょう.
$$ \cos{x} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n}{(2n)!} x^{2n} = 1 – \frac{x^2}{2!} + \frac{x^4}{4!} + \cdots $$
$$ \sin{x} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n}{(2n+1)!} x^{2n+1} = \frac{x}{1!} – \frac{x^3}{3!} + \frac{x^5}{5!} + \cdots $$
指数関数の定義と同じく, こちらも三角関数をマクローリン展開したものです. これを三角関数の新たな定義とします.
この定義を使えば, 幾何学に依存することなく, ただのべき級数の和として三角関数を考えることができます.
複素関数への拡張
上で定義した指数関数, 三角関数はあくまで実数での使用を前提とした実数関数です. この実数関数を複素数を入れて使える複素関数へと拡張します.
指数関数や三角関数を複素指数関数や複素三角関数にすることは簡単で, 上述した指数・三角関数の定義における実数 \( x \) を複素数 \( z \) に置き換えるだけです.
$$ e^\dot{z} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{\dot{z}^n}{n!} = 1 + \dot{z} + \frac{\dot{z}^2}{2!} + \frac{\dot{z}^3}{3!} + \frac{\dot{z}^4}{4!} + \cdots $$
$$ \cos{\dot{z}} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n}{(2n)!} \dot{z}^{2n} = 1 – \frac{\dot{z}^2}{2!} + \frac{\dot{z}^4}{4!} + \cdots $$
$$ \sin{\dot{z}} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n}{(2n+1)!} \dot{z}^{2n+1} = \frac{\dot{z}}{1!} – \frac{\dot{z}^3}{3!} + \frac{\dot{z}^5}{5!} + \cdots $$
複素数の冪乗は計算できますので, 上記の式はすべて計算できます.
これで指数関数, 三角関数を複素数へと拡張することができました.
オイラーの公式の導出
上記, 複素指数関数について, 特に, \( z \) が純虚数であり, \( ix \) ( \( x \) は実数)と表されるとき, 以下のようになります.
$$ e^{ix} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{i^n}{n!} x^n = 1 + ix – \frac{x^2}{2!} -i \frac{x^3}{3!} + \frac{x^4}{4!} + \cdots $$
実部と虚部に分けて整理すると,
\begin{eqnarray} e^{i x} &=& \sum_{n=0}^{\infty} \frac{i^n}{n!} x ^n \\ &=& \sum_{n=0}^{\infty} \frac{i^{2n}}{(2n)!} x ^{2n} + \sum_{n=0}^{\infty} \frac{i^{2n+1}}{(2n+1)!} x ^{2n+1} \\ &=& \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^{n}}{(2n)!} x ^{2n} +i \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^{n}}{(2n+1)!} x ^{2n+1} \end{eqnarray}
となります. 三角関数の定義と比較すると,
$$ e^{i x} = \cos{x} + i \sin{x} $$
が得られ, オイラーの公式が示されました.
まとめ
\( i \) の2乗でマイナスが現れ, cos と sin で過不足なく, ぴったり一致するところが芸術的です.
\( e^\dot{z} \) を 「\( e \) を \( \dot{z} \) 回掛けた関数」という考えから脱却し, 「\( e^{\dot{z}} \) をマクローリン展開した形こそが, 複素指数関数の定義だ」と考えることからすべての問題は氷解します.