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論文と比較して特許とは何かを考える会

投稿日:2021年5月9日 更新日:

近頃, 仕事で特許検索ツールをよく使います.

これまで論文しか読んでこなかったのですが, 特許というのは無機質で平坦で面白味に欠けるものだと決めつけておりました. 無機質で平坦というのは実際そうだったのですが, 特許は特許で, 論文にはない特徴や面白さがあることも分かり始めたところです.

ここでは, 論文しか読んだことのない人に向けて, 特許の面白いところを, 論文と比較しつつ紹介していきます.

論文と特許の違い

論文とは?特許とは?

論文と特許を比較するためにも, まず最初に, 論文とは何か?特許とは何か?ということについて大まかに確認します.

論文とは, 学問研究の成果を書き記した文書のこと.

特許とは, 発明公開の対価として, 一定期間その発明を独占的に使用する権利を発明者に認める制度です.

論文とは文章であり, 特許とは制度なので, 同列のものとして比較するならば「特許文献」を持ってくるのがここでは正しいのかもしれません.

また, 論文は「学問研究」に関するもの, 特許文献は「発明」に関するもの, と広く認識されています.

論文を書く目的と著者の気持ち

続いて, 論文を書くときと, 特許申請用紙を書くとき, それぞれ筆者がどのような気持ちで書いているのかを紹介します.

論文は「同じ分野の研究者」を対象読者とし, 「可能な限り多くの人に自身の研究を知ってもらうこと」を目的とします.

そのため, タイトルには注目を集めるような文言を用い, 研究の意義を大げさに誇張します.

これは偏に多くの人に見てもらいたいからであり, 誰にも顧みられない論文に価値がないためです. 論文で多くの注目を浴びれば研究資金を国や企業からもらえる可能性が向上し, 自身の研究者としての評価が高まります.

できるだけ多くの人に見てもらいたいので, 導入部分では研究背景を懇切丁寧に説明します.

論文の筆者からしてみれば, 少し分野の離れた人や初学者も読者と認識しているため, 研究の内容に興味を持ってもらえるのは喜ばしいことです. ただし, 当然ながら, 論文を読むことの難しさは, その論文筆者の配慮の程度や, 読者自身の理解度に大きく依存します.

特許の目的と出願者の気持ち

一方, 特許が対象とする読者は「同じ分野の研究開発者」ではありません. もちろん, 何も知らない私のような部外者一般人でもありません.

特許申請用紙が見据える読者とは「特許審査官」です.

特許とは, 発明品を使う権利を守るためのものであり, 特許審査を通過するために書かれます. 読み手の多寡は問題ではありません. むしろ, 出願者としては読まれない方が都合がよいでしょう.

そのため, 発明の価値をことさら強調することはなく, 丁寧に説明することもありません. 必要最低限の説明に留められます.

構成

以上のような論文と特許の目的の違いから, 特許の構成が決まってきます.

特許の大まかな構成

特許の構成を決めるのは審査官です. 特許とは審査官が読みやすいような構成を取り, 審査官が特許文献をスムーズに検索できるように, 属性が付与されています.

論文に比べると, 特許には「一目で分かる優位性や発明の意義」のようなものがありません. たとえ構成部品や成分が少し違うだけでも, 特許として認められるためです. 論文であれば, 構成部品や成分を変更しても, それで性能が落ちたのでは何の意味もありません.

しかし, 特許であればそれでも構いません. それも一つの発明です.

論文目線で意味不明な「請求項」

特許文献には「請求の範囲」という項目があります. これも論文にはない, 特許に特有の部分です. 請求の範囲を端的に説明すると, 「自分が占有したい領域を AND条件で示したもの」と言えるでしょう.

特許とは「陣取りゲーム」です. 他人がやっていないことを探し出し, その領域を占有します.

他人がすでにやっている部分を占領しようとすると, 「そこは既に他者が占有している領域です」とゲームマスターに告げられ, 申請がはじかれます.

そこで, “[請求項1] and [請求項2] and [請求項3] and …”

という条件で占有したい陣地を限定します. 他人が占有しておらず, 尚且つ, できるだけ広大な領地を確保することが目的です.

よって, 特許の陣取りゲームに参加していない一般人部外者には特段重要な部分ではありませんし, ゲームマスター以外には非常に読みづらい形をしています.

読み手視点で有難い特許の特徴:FI, IPC

ここまで, 一般読者視点で特許の悪口ばかり書いてきましたが, 特許にも(読者にとって)大変有難い特徴があります.

それは大変システマチックにできている, ということです.

国内の特許は「FI(File Index)」という属性を持っています. これは特許を分野ごとに分類するための日本独自の基準です. 国際的には「IPC(International Patent Classification)」という基準が用いられます.

「C06B21」というFIを例にとってみましょう. 先頭の「C」は 「化学・治金」領域の特許を表し, 「C06」はその中でも「火薬・マッチ」に限定した特許群を表します. さらに「B21」はその下位構造である「火薬を仕上げるための装置または方法,例.成形,切断,乾燥」を表しています.

特許の階層構造(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p1101)

このようにFIは階層構造を持ち, 調べたい分野の特許群をすぐに見つけることができます. 爆弾を作る方法を知りたければ「C06B21」の領域を調べればよいわけです.

これがすべての特許に付されていることと組み合わせて利用すると, 特許を統計的に取り扱うことができます. 例えば, とある企業の特許出願年を横軸, FIやIPCなどの特許分類を縦軸に取って特許公開数をプロットすれば, その企業が最近何に力を入れているのかが分かります.

豊田中央研究所のパテントマップ(横軸:出願年 – 縦軸:IPC)

特許を読もうとするほとんどの人間にとって, 一つ一つの特許の中身は大した意味を持っていません. 知りたいのは上記のような統計的傾向や企業ごとの方針です. FIなどの属性が付されていることは特許を読む人々のニーズにばっちり合っています.

論文しか読まなかった私としましては, これが中々衝撃的でした.

特許を読んで気づいたのですが, 論文は「最近のトレンドを追いかける」という用途にとことん向かない媒体です.

論文は「コンテンツ」以外ですと, 「著者」「掲載誌の種類」「出版年」「被引用件数」という属性しか持っていません. 素人が「どの分野に関する論文なのか」を判断する方法は「掲載誌」と「タイトル」しかないのです. 特許のように分類がキッチリしていません.

もちろん優秀な論文検索ツールを使い, 適切に検索をかければ目的とする論文に至ることはできるでしょう. しかし, 特定のフォーマットに従わない論文は, 本当に様々なレベルのものが存在しています. 最終的には中身を読んでみなければ分かりません.

また, 論文すべてに同じだけの重みを与え, 統計的に扱うことなど大抵の場合に意味を持ちません. 「AI関連の論文数はここ10年で~%増えた」という話をするのが精々といったところでしょう.

統計的な取り扱いをするならば, 特許は論文と比べて遥かに優れたフォーマットです.

私たちは特許の統計情報を風景のように表示し, 「この会社はこういう感じでやっているのか」, 「この分野は今こういう風に変わっているのか」と確認することができます. そこから「今後こういう風に変わっていくのだろう」と予想を立てられること, それこそが特許検索の楽しみ方と言えましょう.

特許検索ツール

特許に興味を持った方は是非とも一度特許を使って遊んでみて下さい. 誰でも簡単に使えます.

特許検索ツールは主に3種類あります.

  1. J-Plat Pat
  2. その他の無料ツール(Patentfield, Google Patent など)
  3. 有料ツール(Patent Integration など)

J-Plat Pat 独立行政法人が運営している無料のツールで国内の特許文献を検索できます. Google Patent は神様(Google)が作ってくださった無料ツールで, こちらは海外の文献も検索可能です.

私の感覚としまして「検索能力」はどれでも大して違いはないかと. 無料検索ツールでも十分高度な検索が可能です.

ただし J-Plat Pat と Google Patent には「特許を統計的に扱う機能」がありません. 有料ツール(Patent Integration など)を使えば, 上述したような「横軸:出願年 – 縦軸:FI の特許出願数グラフ(パテントマップ)」などをすぐに作ることができます.

しかし最近は無料でも良いツールがあるようです. Patentfield なる無料ツールは統計分析機能まで持っています. 上記豊田中研のパテントパップは Patentfield で作りました. 初めて使う人はこれで十分楽しめます.

本当に簡単ですし, 論文検索に慣れ親しんでいる方にとっては何の苦もない作業です. まずは遊んでみてください.

まとめ

以上, ご覧頂きありがとうございました.

まとめると, 「論文は読んで面白い」のですが, 「特許は並べて眺めると面白い」です. これから特許を扱う機会がある方々が, 本稿を通して, 少しでも特許に興味を持っていただければ幸いです.

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