オイラーの公式を証明したり, 関数の近似値を計算するときに便利なマクローリン展開という操作があります.
今回はマクローリン展開を扱うための下準備として「コーシーの平均値の定理」をやっていきます.
コーシーの平均値の定理を理解するために重要なことは「図形的イメージ」です。絵を描いて理解しましょう.
目次
コーシーの平均値の定理の導出

時刻によって位置が変化する点Pが xy平面上を移動するとしましょう.
時刻 $ t $ における点Pの y座標, 及び x座標は以下のように表されることとします.
$$ \left\{ \begin{align} y= \, f(t) \\ x= \, g(t) \end{align} \right. \; \cdots \; (1) $$
点Pが時刻 $ t=a $ において点Aを出発し, 時刻 $ t=b $ において点Bに到着するとします. 点Aから点Bに移動するとき, 点Pがどのような軌跡を描くかは分かりませんが, 以下の図のように移動したとしましょう.

図1の点Pの軌跡について, 接線を考えてみます.
時刻 $ t $ における接線とは, 時刻 $ t $ における点Pの位置 $ (g(t), f(t) ) $ と, 微小時間後 $ t + \Delta t $ における点Pの位置 $ (g \, (t + \Delta t), f \, (t + \Delta t)) $ を結び, $ \Delta t \rightarrow 0 $ の極限を取った直線のことです.
よって, 接線の傾きは
\begin{eqnarray} &\rm{ }& \rm{時刻 } \it{ t } \rm{ における接線の傾き} = \lim_{t \to 0} \frac{ \it{y } \rm{ の変化量}}{ \it{x } \rm{ の変化量}} \\ &=& \lim_{t \to 0} \frac{f(t + \Delta t)-f \, (t)}{g(t + \Delta t)-g \, (t)} = \lim_{t \to 0} \frac{ \left( f \, (t + \Delta t)-f(t) \right) / \Delta t}{ \left( g \, (t + \Delta t)-g(t) \right) / \Delta t} \\ &=& \frac{f'(t)}{g'(t)} \; \cdots \; (2) \end{eqnarray}
となります. 後で大事になるので覚えておいてください.
ここで一旦話は変わり, 点Aと点Bを結ぶ直線の傾きについて考えます.
こちらは先ほどの接線の傾きより随分簡単かと. 傾きは「変化の割合」, つまり, (yの変化量) / (xの変化量)です.
\begin{eqnarray} &\rm{ }& \rm{直線ABの傾き} \ &=& \frac{f \, (b)-f \, (a)}{g \, (b)-g \, (a)} \; \cdots \; (3) \end{eqnarray}
もう一度, 点Pの描く曲線を眺めてみると, 接線の傾きが直線ABの傾きと同じになる点が存在することが分かります.

また, 下の図3を見ると, 点Pがいかなる経路を辿ったとしても, 直線ABの傾き = 接線の傾きとなる点は必ず存在することが分かります.

「いかなる経路を辿ったとしても, 直線ABの傾き = 接線の傾きとなる点がAとBの間に存在する」という事実を数式で表したものが, 『コーシーの平均値の定理』です.
ただし, それには条件があり, 地点Aから Bに移動するとき, ワープしたり($f \, (t)$ や $g \, (t)$ が $t$ に対して非連続), 直角に曲がったり(微分不可能)しないことです.
関数 $ f \, (t) $ と $ g \, (t) $ が $ a \leqq t \leqq b $ で連続, かつ, $ a < t < b $ で微分可能, さらに $ a < t < b $ で $ g'(t) \neq 0 $ を満たすとき,
$$ \frac{f'(c)}{g'(c)} = \frac{f \, (b)-f \, (a)}{g \, (b)-g \, (a)} \;\;\; (a < c < b) $$
を満たす $ c $ が存在する.
ラグランジュの平均値の定理
コーシーの平均値の定理において $ g(t) = t $ の特殊な場合, $ g'(t)=1 $ となり,
$$f'(c) = \frac{f \, (b)-f \, (a)}{b-a} \; \cdots \; (4) $$
になります。これをラグランジュの平均値の定理と呼びます。
関数 $ f(t) $ が $ a \leqq t \leqq b $ で連続かつ, $ a < t < b $ で微分可能のとき,
$$ f'(c) = \frac{f \, (b)-f \, (a)}{b-a} (a < c < b) $$ を満たす $ c $ が存在する.
こちらは高校で習った人もいるかもしれません。
まとめ
コーシーの平均値の定理は数式を眺めるだけでなく, 幾何学的に考えると理解が容易になる定理の代表です. マクローリン展開の証明に応用されます.
ちなみに, コーシーさんはマクローリン展開の一般形, テイラー展開を考えたテイラーさんより, かなり後の時代の人ですので, コーシーの平均値の定理を使ってテイラー展開が導かれたわけではないです. ここでは分かりやすさを重視していきたいと思います.