テイラー展開, マクローリン展開とは何か?

マクローリン展開は様々な関数を「 \( x^n \) ( \( n \geq \) 0 の整数) の線形和」に変形する便利な数学的操作です.

\( \sin{(x)} \) などの三角関数や \( e^x \) などの指数関数を単純な累乗の項からなる多項式に変換できるため, 複雑な式を近似して計算を容易にするために用いられます.

マクローリン展開の応用は近似だけではありません. 複素数における最重要公式 「オイラーの公式」を導くためにも使われます.

本稿ではマクローリン展開とは何か, という話をした後, マクローリン展開はどういった関数に適用できるのか, について話していきます.

マクローリン展開とは何か?

マクローリン展開とは, ある関数を \( x^n \) からなる多項式に変形する操作を指します.

マクローリン展開

$$f(x)= \sum_{n=0}^{\infty} \frac{f^{(n)} (0)}{n!} x^n $$

\( f \) の右上についている \( ^{(n)} \) は「\( n \) 回微分した」ことを意味します.

例として, マクローリン展開した指数関数や対数関数を以下に示します.

\begin{eqnarray} 指数関数 \; &:& \; e^x = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{x^n}{n!} \\ 対数関数 \; &:& \; \log{(1+x)} = \sum_{n=1}^{\infty} \frac{(-1)^{n+1}}{n} x^n \end{eqnarray}

コンピュータにとって \( e^x \) や \( \log{(1+x)} \) の計算は苦手とするところですが, 累乗の項の多項式で扱うことができれば計算が楽になります. コンピュータはマクローリン展開を使って指数関数を近似し, 計算を行っているのです.

マクローリン展開によく似た操作にテイラー展開がありますが, マクローリン展開はテイラー展開の一部であり, テイラー展開の特殊な形です.

テイラー展開

$$f(x)= \sum_{n=0}^{\infty} \frac{f^{(n)} (a)}{n!} (x-a)^n $$

テイラー展開はマクローリン展開の一般形で, \( x=a \) を中心に展開をします. \( x= 0 \) を中心に展開をしたものがマクローリン展開です.

テイラー展開可能である条件

テイラー展開, マクローリン展開は複雑な関数を累乗の多項式として表せて大変便利. 適用可能範囲が非常に広いですが, いつでも使えるわけではありません. 以下では, マクローリン展開とテイラー展開の適用範囲について考えていきます.

マクローリン展開はテイラー展開の特殊形なので, 考えるべきはテイラー展開です.

有限項でテイラー展開を止めた場合の関係式を「テイラーの定理」と呼び, 以下のように表されます.

テイラーの定理 (有限項のテイラー展開)

\begin{eqnarray} f(x) &:& (a, b) \rm{ で } \it{n} \; \rm{階微分可能} \\ \rightarrow f(b) &=& \sum_{k=0}^{n-1} \frac{f^{(k)} (a)}{k!} (b-a)^{k} + \frac{f^{(n)} (c)}{n!} (b-a)^{n} \end{eqnarray}
を満たす \( a < c < b \) が存在する.

ここで,
\begin{eqnarray} S_n (x) = \sum_{k=0}^{n-1} \frac{f^{(k)} (a)}{k!} (b-a)^{k}, \;\; R_n (x) = \frac{f^{(n)} (c)}{n!} (b-a)^{n} \end{eqnarray}
として, \( S_n (x) \) をテイラー展開の \( n \) 次の主要項, \( R_n (x) \) を剰余項という.

テイラーの定理が成り立つことを証明し, この定理が \( n \rightarrow \infty \) においても成り立つ条件さえ分かれば, テイラー展開がどのような条件下において適用可能であるのか分かります. 順番にやっていきます.

有限項で止めた場合 (テイラーの定理)の証明

テイラーの定理の証明には「コーシーの平均値の定理」を用います. コーシーの平均値の定理を忘れた方はこちらをご覧ください.

では, 証明をします.

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テイラーの定理の証明

\begin{eqnarray} F(x) &=& f(x) – \sum_{k=0}^{n-1} \frac{f^{(k)} (a)}{k!} (x-a)^{k} \\ \rm{ } \\ &\rm{ }& ( f(x): \left( \it{ a } , \it{ b } \right) で \it{ n } \; \rm{階微分可能} ) \\ \rm{ } \\ G(x) &=& (x-a)^n \end{eqnarray}

とおくと,

\begin{eqnarray} F(a)=F'(a)=F”(a)= \cdots = F^{(n-1)} (a) = 0, \; F^{(n)} (a)=f(a) \end{eqnarray}

\begin{eqnarray} G(a)=G'(a)=G”(a)= \cdots = G^{(n-1)} (a) = 0, \; G^{(n)} (a)=n! \end{eqnarray}

コーシーの平均値の定理より,

$$ \frac{F(b)-F(a)}{G(b)-G(a)} = \frac{F'(c_1)}{G'(c_1)} \;\;\; \cdots (1) $$

を満たす \( c_1 \) が \( a \) と \( b \) の間に存在する.

\( F'(a) = G'(a) = 0 \) であることから, (1)式の右辺をコーシーの平均値の定理を用いて書き直すと,

$$ \frac{F'(c_1)}{G'(c_1)} = \frac{F'(c_1)-F'(a)}{G'(c_1)-G'(a)} = \frac{F”(c_2)}{G”(c_2)} \;\;\; \cdots (2) $$

を満たす \( c_2 \) が \( a \) と \( c_1 \) の間に存在することが分かる.

\( k \leq n-1 \) において, \( F^{(k)} (a) = G^{(k)} (a) = 0 \) であるため, 上記 (1), (2)式と同様に,

$$ \frac{F^{(k)} (c_\rm{k})}{G^{(k)} (c_k )} = \frac{F^{(k)} (c_k ) -F^{(k)} (a)}{G^{(k)} (c_k ) -G^{(k)} (a)} = \frac{F^{(k+1)} (c_{k + 1})}{G^{(k+1)} (c_{k + 1})} \;\;\; \cdots (3) $$

を満たす \( c_{k+1} \) が \( a \) と \( c_k \) の間に存在する.

(3)式より, 帰納的に

$$ \frac{F(b)-F(a)}{G(b)-G(a)} = \frac{F^{(n)} (c_n )}{G^{(n)} (c_n )} \;\;\; \cdots (4) $$

を満たす \( c_n \) が \( a \) と \( b \) の間に存在する. (4)式の両辺を具体的に書き表し, 整理すると,

\begin{eqnarray} \frac{F(b)}{(b-a)^{(n)}} &=& \frac{f^{(n)} (c_n )}{n!} \\ \rm{ } \\ f(b) – \sum_{k=0}^{n-1} \frac{f^{(k)} (a)}{k!} (b-a)^{k} &=& \frac{f^{(n)} (c_n )}{n!} (b-a)^{(n)} \\ \rm{ } \\ f(b) &=& \sum_{k=0}^{n-1} \frac{f^{(k)} (a)}{k!} (b-a)^{k} + \frac{f^{(n)} (c_n )}{n!} (b-a)^{(n)} \end{eqnarray}

となり, テイラーの定理が得られる.

\( n \rightarrow \infty \) においてテイラーの定理が成り立つ条件

無事テイラーの定理を証明できました.

ここで, 剰余項 \( R_n \) が \( n \rightarrow \infty \) でゼロになるならば, 以下のようにテイラー展開の式を導出できます.

\begin{eqnarray} \lim_{n \to \infty} f(x) &=& \lim_{n \to \infty} S_n (x) + \lim_{n \to \infty} R_n (x) \\ f(x) &=& \lim_{n \to \infty} S_n (x) \\ &=& \sum_{n=0}^{\infty} \frac{f^{(n)} (a)}{n!} (x-a)^n \end{eqnarray}

以上をまとめると, テイラー展開が可能である条件は,「テイラーの定理が成立し」,「剰余項の極限値がゼロ」となることです.

テイラー展開可能である条件

\begin{eqnarray} &\rm{(1)}& \; a \in I について f(x) が a 近傍で \infty 階微分可能 \\ \\ &\rm{(2)}& \lim_{n \to \infty} R_n = \lim_{n \to \infty} \frac{f^{(n)} (c)}{n!} (x-a)^{n} =0 \;\; (c は x と a の間の数) \end{eqnarray}

もちろん上記条件が成立しない場合もありますし, 上記条件を満たして形式的にはテイラー展開が可能であっても, 元の関数を表さない, という場合もあります.

テイラー展開には例外があるわけです. そのあたりのことについては機会があれば触れてみたいと思います.

まとめ

テイラー展開, マクローリン展開は応用上便利な数学的操作です.

どの範囲で利用できる, ということを抑えて, 気兼ねなく使ってあげてください.

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