分母に複素変数の2乗を持つ複素関数の積分
電気回路や, 信号解析をやっていると急に複素数の知識を求められることがあります.
本記事では, 分母に複素数の 2乗が現れる以下のような複素積分を解説します.
$$ \int_{u}^{v} \frac{dz}{a+ibz^2} $$
分かっている人にとっては当たり前過ぎて解説の必要もないでしょうが, 個人的に思うところがあって解説します.
まずは本記事執筆の動機について, その後計算方法を語ります.
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本記事執筆の動機
以下の論文を読んでいました.
T. Miyadera, et al., “Investigation of complex channel capacitance in C60 field effect transistor and evaluation of the effect of grain boundaries”, Current Applied Physics
当時複素数についての理解も曖昧だった私は, モデルの本質に辿り着く以前に, 計算を追いかけられず四苦八苦していました. 困ったのは以下の計算です.
$$ \int_{\infty}^{Z_g} \frac{dZ}{r_g – i Z^2 c_g 2 \pi f} = \int_{L/2}^{L} dx $$
分母に複素数の 2乗がある積分です. \( r_g \) が無ければただの2乗の積分ですし, 1乗なら積分して \( \log \) にできるのに . . .
\( r_g \) があって, 2乗になっているせいで絶妙に面倒な計算です.
計算方法
方針
結論から述べますと, 「『2乗 – 2乗』の因数分解」と「部分分数分解」を使えば解決です. 最後に積分して \( \log \) にします.
計算
上の式は文字が多くて見づらいので, 左辺の複素積分を以下のように置きます.
$$ \int_{Z_g}^{\infty} \frac{dz}{a+ibz^2} $$
変形します.
\begin{eqnarray} \int_{Z_g}^{\infty} \frac{dz}{a+ibz^2} &=& \int_{\infty}^{Z_g} \frac{dz}{ \left( a^{1/2} \right) ^2 – \left\{ (b /2)^{1/2} \, (1+i) z \right\} ^2 } \end{eqnarray}
計算簡略化のために, \( a^{1/2} = \alpha \; , \; (b /2)^{1/2} \, (1+i) = \beta \) と置いて整理すると,
\begin{eqnarray} &=& \int_{\infty}^{Z_g} \frac{dz}{(\alpha + \beta z)(\alpha – \beta z)} \\ &=& \int_{\infty}^{Z_g} \frac{1}{2 \alpha} \left\{ \frac{1}{\alpha + \beta z} + \frac{1}{\alpha – \beta z} \right\} dz \\ &=& \frac{1}{2 \alpha} \left[ \frac{1}{\beta} \log{ ( \alpha + \beta z ) } – \frac{1}{\beta} \log{ ( \alpha – \beta z ) } \right]_{\infty}^{Z_g} \\ &=& \frac{1}{2 \alpha \beta} \left[ \log{ \left( \frac{\alpha + \beta z}{\alpha – \beta z} \right) } \right]_{\infty}^{Z_g} \\ &=& \frac{1}{2 \alpha \beta} \, \log{ \left( \frac{\alpha + \beta Z_g}{\alpha – \beta Z_g} \right) } \end{eqnarray}
後は普通に計算して整理していけば,
$$ Z_g = \frac{exp \left( L \sqrt{r_g c_g 2 \pi fi} \right) +1 }{ exp \left( L \sqrt{r_g c_g 2 \pi fi} \right) -1} \sqrt{ \frac{r_g}{c_g 2 \pi f i} } $$
が導かれます.
補足
・\( i \) のルート(1/2乗), 1/3乗等の計算は極形式で考えると分かりやすいです.
\( i = e^{i \pi /2} \) なので, \( i^{1 /2} = e^{i \pi /4} = 2^{ \, -1/2} \, (1+i) \) になります.
・上記複素積分が通常の積分と同様に計算できるのは, \( \frac{1}{\alpha + \beta z} \) が複素数全体で連続, かつ原始関数 \( \frac{1}{\beta} \log{ \left( \alpha + \beta z \right) } \) が存在するためです.
意図
この程度のことも分からなかった人間が複素数について解説するような記事を書いているわけですが, 「このぐらい数学勉強してる人なら分かるだろう」と考えて, ネット上に残さないことで, 同じような疑問に時間を費やす人が出ないようにしないと, とも思い, 書き残すことにしました.
2年ほど前にイスラエルの歴史学者が書いた「ホモ・デウス」という本を読み, その中で「データ教」なる宗教について触れられています.
曰く, 「人間の価値とはAIや機械学習に使われるための一次データを蓄積することにある」という極端な考え方なのですが, 他者の一部(AIも含む)の中で自分が生き続けるというのは, 夢があるなぁ, とも感じました.
ということで, 自身が躓いた些細な小石であっても, ちゃんと残していこうと考えた次第です.