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複素数基礎

分母に複素変数の2乗を持つ複素関数の積分

投稿日:2020年8月11日 更新日:

電気回路をやってたり, 信号解析をやっていると急に複素数の知識を求められることがあります. 「これぐらい知ってて当然だろ?」という体でひょっこり現れ, 人々を置き去りにして虚数世界に消えていく.

残された人々に一から勉強させるのも酷な話です. そこで読者を選別しているというのなら別にいいのですが, 文章を作った以上, より多くの人に見てもらいたいとは思っているはずでしょうに.

本記事では, 分母に複素数の2乗が来ている以下のような複素積分を解説します.

$$ \int_{u}^{v} \frac{dz}{a+ibz^2} $$

分かっている人にとっては当たり前過ぎて解説の必要もないでしょうが, 個人的に思うところがあって解説します.

まずは本記事執筆の動機について, その後計算方法を語ります.

本記事執筆の動機

「話をしよう. あれは今から36万. . . いや, 1万4千年だったか. まぁいい. 私にとってはつい昨日の出来事だが . . . 君達にとっては多分明日の出来事だ」

以下の論文を読んでいました.

T. Miyadera, et al., “Investigation of complex channel capacitance in C60 field effect transistor and evaluation of the effect of grain boundaries”, Current Applied Physics 7, 87-91. (2007).

FETの中心でインピーダンスが無限大になるという仮定が間違っているので, 本モデルでは正しいスペクトルは得られないのですが, その辺りはまぁいいとして.

当時複素数についての理解も曖昧だった私は, モデルの本質に辿り着く以前に, 計算を追いかけられず四苦八苦していました. 困ったのは以下の計算です.

$$ \int_{\infty}^{Z_g} \frac{dZ}{r_g – i Z^2 c_g 2 \pi f} = \int_{L/2}^{L} dx $$

分母に複素数の2乗がある積分です. $ r_g $ が無ければただの2乗の積分ですし, 1乗なら積分して log にできるのに . . .

$ r_g $ があって, 2乗になっているせいで絶妙に面倒な計算です.

計算方法

方針

結論から述べますと, 「『2乗 – 2乗』の因数分解」と「部分分数分解」を使えば解決です. 最後に積分して log にします.

計算

上の式は文字が多くて見づらいので, 左辺の複素積分を以下のように置きます.

$$ \int_{Z_g}^{\infty} \frac{dz}{a+ibz^2} $$

変形します.

\begin{eqnarray} \int_{Z_g}^{\infty} \frac{dz}{a+ibz^2} &=& \int_{\infty}^{Z_g} \frac{dz}{ \left( a^{1/2} \right) ^2 – \left\{ (b /2)^{1/2} \, (1+i) z \right\} ^2 } \end{eqnarray}

計算簡略化のために, $ a^{1/2} = \alpha $, $ (b /2)^{1/2} \, (1+i) = \beta $ と置いて整理すると,

\begin{eqnarray} &=& \int_{\infty}^{Z_g} \frac{dz}{(\alpha + \beta z)(\alpha – \beta z)} \\ &=& \int_{\infty}^{Z_g} \frac{1}{2 \alpha} \left\{ \frac{1}{\alpha + \beta z} + \frac{1}{\alpha – \beta z} \right\} dz \\ &=& \frac{1}{2 \alpha} \left[ \frac{1}{\beta} \log{ ( \alpha + \beta z ) } – \frac{1}{\beta} \log{ ( \alpha – \beta z ) } \right]_{\infty}^{Z_g} \\ &=& \frac{1}{2 \alpha \beta} \left[ \log{ \left( \frac{\alpha + \beta z}{\alpha – \beta z} \right) } \right]_{\infty}^{Z_g} \\ &=& \frac{1}{2 \alpha \beta} \, \log{ \left( \frac{\alpha + \beta Z_g}{\alpha – \beta Z_g} \right) } \end{eqnarray}

後は普通に計算して整理していけば,

$$ Z_g = \frac{exp \left( L \sqrt{r_g c_g 2 \pi fi} \right) +1 }{ exp \left( L \sqrt{r_g c_g 2 \pi fi} \right) -1} \sqrt{ \frac{r_g}{c_g 2 \pi f i} } $$

が導かれます.

補足

・$ i $ のルート(1/2乗), 1/3乗等の計算は極形式で考えると分かりやすいです.

$ i = e^{i \pi /2} $ なので, $ i^{1 /2} = e^{i \pi /4} = 2^{ \, -1/2} \, (1+i) $ になります.

・上記複素積分が通常の積分と同様に計算できるのは, $ \frac{1}{\alpha + \beta z} $ が複素数全体で連続, かつ原始関数 $ \frac{1}{\beta} \log{ \left( \alpha + \beta z \right) } $ が存在するためです.

教訓

この件で, 複素積分の勉強ができたことは有難いことでした.

人間, 必要に迫られないと本気で勉強しないのだということを, 学部時代との対比で痛感することができました. 良い教訓が得られたと感じております. 勉強とはやはり, 必要に迫られ, 自身に必要だと理解してすべきものです.

小学校や中学校の教師は, 「何の役に立つのか?」をちゃんと話すべきでしょうに. ふぁっきん義務教育.

一方で, 「もっと短い時間で出来た」という思いは残ります. この程度のことはネットに載ってても良いのではないか, という思いです.

多くの人にとって, 複素数はプログラミングスキルや英語と同じく「便利なツール」で良いと思います. 即ち, 中身がある程度分かっていれば, 必要なときにネットの情報を頼りに使うことができ, 作業をスムーズにしてくれるものとしての複素数です.

それ以上の複素数は, 趣味か, 複素数を研究する人にだけ必要なものでありましょう.

こうした思いで本記事を執筆し, このサイト全体を作っているわけであります. 忘れたときのための備忘録, 複素数についての外部記憶装置として.

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