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あなたの隣に這い寄る混沌:ハゲタカジャーナル ~ハゲタカジャーナルの見分け方~

投稿日:2020年7月10日 更新日:

近年問題となりつつあるハゲタカジャーナルについて, タイトル以外は真面目に解説していきます.

ハゲタカジャーナルは個人の利益のために科学そのものを脅かす存在です. 現状では各自が高いモラルと知識を持つこと以外に対処方法はありません.

ハゲタカジャーナルとは何なのかを解説していきます.

論文の仕組み

ハゲタカジャーナルとは何なのか, どれほど恐ろしいものなのかを語る前に, 論文の仕組みについて確認していきます.

論文誌の与える権威性と正当性

とある無名研究者が研究の末に新たな発見をし, 自身のウェブサイト上で文書として世の中に公開したとしても, 科学者の言うところの『論文』とは認められません. 論文とは, 基本的に『論文誌』に掲載された文書を指します.

“Nature” や “Science” といった科学論文誌が有名です. 論文誌は規模も分野も様々なものが存在します.

これら科学論文誌は厳正なる審査の後, 論文の内容が掲載に相応しければ, 論文誌に論文を掲載します. 論文誌に掲載された論文は, 晴れて「内容が信頼に足るものである」とお墨付きを頂くわけです.

論文誌は論文に対して, 「実験, 解析手法, 結果の解釈が正当である」という証明を与え, 高名な論文誌の場合には, 同時に「権威性 (有名な論文誌に掲載された)」も与えます. 論文誌は「権威性と正当性」を与える対価として, 筆者から「論文掲載料」を受け取ります.

また, 論文誌は読者に対して, 「正しい手順で進められた価値ある研究成果」の情報を与える対価として, 購読料を徴収します.

図1. 論文誌, 著者, 読者の正しい関係

査読

著者が論文誌に投稿した論文が, 掲載に相応しい内容かどうかを見定め, ミスのチェックをするプロセスを『査読』と呼びます. 上記の通り, 論文記載の内容が「正しい」と言うために, なくてはならない作業です.

査読は複数人で行われ, 一般には同じ研究分野の研究者が行います. 査読をし, 修正して, 再度見てもらうという作業を繰り返しますので, とにかく時間が掛かります. 早くても1か月ほど, 長ければ1年ほど掛かることもあります.

オープンアクセスとは

30年ほど前, 論文購読料の高騰が問題となりました. 論文の値段が高すぎて, 読者が満足に論文を読むことができず, 科学の発展を妨げるものだ, と各所から不満が飛び交ったのです.

「発表は自身の研究成果を世に知らしめるためのものであって, 金銭的営利目的で行うものではない」という考えも後押しとなり, 生まれたのが「オープンアクセス」です.

オープンアクセスは無料で閲覧できる論文を指します.

オープンアクセスの論文には様々な種類がありますが, 読者が閲覧料を払う代わりに, 著者が論文誌に対して多めに掲載料を支払う, という形式が一般的です. このような論文投稿方法をゴールドロードと呼びます. 著者は論文掲載時に「一般の掲載料を支払う」か, 「オープンアクセスとするために多めに掲載料を支払う」かを選択できます.

オープンアクセスとした場合には, 閲覧が無料の分だけ多くの読者に読んでもらえるので, 読者にも著者にもメリットがあります.

また, 上記の形式で掲載されるオープンアクセス論文は, 通常と同じ査読プロセスを経るため, 論文の持つ「権威性」や「正当性」は有料の論文と同等です. 中には, “Nature” のようにゴールドロードを一切採用していない論文誌もあります.

ハゲタカジャーナル

意図的に査読プロセスを省略し, ほぼ投稿されたそのままの形で論文を掲載するオープンアクセスの論文誌を「捕食出版社」, または「ハゲタカジャーナル」と呼びます.

捕食出版社やハゲタカジャーナルという言葉は, 著者を被捕食者, 論文誌を捕食者に例えた言葉です.

現在, 様々な研究分野で増え続け, 問題となっています.

ハゲタカジャーナルの影響

ハゲタカジャーナルが増えると, 質の低い論文が世に溢れ, 科学そのものに対する信用が無くなります.

同時に, 論文誌に論文が掲載されることの意味も変わってきてしまいます. これまで, 論文誌に論文が掲載されるということは, 「内容の正当性が認められる」ことを意味していたのですが, 科学自体の信用が無くなってしまうと, 「論文に掲載されたから何?論文なんて嘘だらけだろ」と考える人が多くなります. 結果として, 科学研究の価値が薄れ, 科学研究は衰退を辿ることでしょう.

図2. ハゲタカジャーナル, 著者, 読者の関係

発生原因

どうしてハゲタカジャーナルの存在が許容され, 増加しているのでしょうか.

第1の原因は, 論文誌に対するチェック機構が存在しないことです.

論文は論文誌によって査読されますが, 論文誌を審査する正当な権威を持った団体は, 世界のどこにも存在しないのです. ハゲタカジャーナルがまともな査読をしないといっても, Wordレベルの文章チェックや構成の編集は行うので, ハゲタカジャーナルが「査読をした」と言えば, それを疑ってわざわざもう一度チェックをしようとする人はほとんどいません.

第2に, 発展途上国における研究者の知識不足がハゲタカジャーナルの温床となっています.

論文投稿についてのノウハウを持った先進諸国の研究者であれば, インパクトファクター (IF)や商業誌か否か, という様々な判断基準のもとに, 投稿先の論文誌を選択しますが, 研究発展途上国においてはそれら知識が不足しています. ハゲタカジャーナルの甘言に惑わされ, 論文誌を碌に調べもせずに, 論文を投稿してしまうのです.

第3に, 研究コミュニティーの狭さ, コミュニティーの排他的性質もハゲタカジャーナルの温床となる問題の1つです.

研究分野によっては, 先進国の研究者のみから成る非常に狭いコミュニティーの中で研究が進行し, コミュニティー内部の研究者同士は全員が顔見知り, ということも珍しくありません. そうした狭いコミュニティーに発展途上国の研究者が参画し, 成果を主張することは大変難しく, 該当する分野で権威のある論文誌への論文掲載にもハンディキャップを負います. そうした研究者の受け皿となるのがハゲタカジャーナルです.

ハゲタカジャーナルは, 発展途上国の研究者と, 一種の共存関係にあると言えます.

ハゲタカジャーナルの判別方法

ハゲタカジャーナルであると判別する基準として, 代表的なものを以下に述べます.

・査読をほとんど行わず, 投稿した論文をすぐに受理する.

・論文が受理された後にのみ掲載費用を通知する.

・研究者に論文を投稿するように積極的にキャンペーンをする.

・編集委員になるようにキャンペーンをする.

・デタラメなインパクトファクターを使う.

知っておくべきこととして, マトモな論文誌が著者に論文投稿を勧めることはありません. 著名な先生にレビュー論文を書いてもらうときには論文誌側から論文投稿を依頼することもありますが, その場合には当然無料で論文投稿を受理しますし, 査読はきちんと行います.

過剰な販促キャンペーンの裏には必ず後暗い秘密があるものです.

ハゲタカジャーナルの例

以下のようなメールが届いた際には注意しましょう. 投稿先の論文誌は必ず自身で判断すべきです. 受動的に投稿先を決めるべきではありません.

まとめ

ハゲタカジャーナルのことを取り上げようと思ったのも, 筆者のところにメールが届いたのがきっかけでした.

「我々はあなたを求めています」と言われると少し嬉しい気持ちになりますよね. 完全に罠なので気を付けて下さい.

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