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正弦波のフェーザ表示(複素数表示)

投稿日:2020年9月16日 更新日:

正弦波とはその名の通り sin関数の形をした波のこと.

コイルやキャパシタという回路要素は入力された信号を微分, もしくは積分して出力するのですが, コイルやキャパシタを sin関数が通過すると cos関数になってしまい計算が煩雑になってしまいます.

微分や積分を実行しても形の変わらない唯一の関数と言えば「指数関数」です. sin関数を指数関数で書き換えることができれば, 微分しても形が変わらないため, 計算が大変楽になります.

「正弦波も指数関数で書けないものか」と考えて, 実際に指数関数で正弦波を表現したものが, 「正弦波のフェーザ表示」である, と言えましょう.

本稿では, 指数関数と複素数を使った正弦波のフェーザ表示(複素数表示)を導出します.

一点注意. 本サイトではこれまで虚数単位に $i$ を使ってきましたが, 今回は $j$ を使います. 電気回路の話に近づいてきて, 今後どこかで電流 $i$ と虚数単位がバッティングする危険を回避するためです. あしからず.

正弦波のベクトル表示

復習ですが, 正弦波の変位 $a(t)$ は以下の形式で書き表せます.

$$ a(t) = A_m \, \sin \, ( \omega t + \varphi ) $$

ここで, $A_m$ は波の振幅, $\omega$ は角速度, $t$ は時刻, $\varphi$ は初期位相です.

正弦波を考えるとき, 下図のような「回転するベクトル」が理解の助けになります.

図 正弦波のベクトル表示

xy座標上に上図のようなベクトル $ \overrightarrow{a} $ を配置すると, x軸と $ \overrightarrow{a} $ のなす角が位相($ \omega t + \varphi $)を表し, $ \overrightarrow{a} $ のy座標(すなわち, $ A_m \, \sin \, ( \omega t + \varphi) $)が時刻 $t$ における波の変位を表します.

正弦波の初期位相をベクトルで置き換えると, 同じ角周波数の正弦波同士を足し合わせるときに大変便利です. 初期位相が $ \overrightarrow{ \alpha } $ の波と $ \overrightarrow{ \beta } $ の波を足し合わせた波の初期位相は $ \overrightarrow{ \alpha } + \overrightarrow{ \beta } $ になります. 図で描くとさらに分かりやすいです.

図 初期位相のベクトル和

正弦波の複素数表示

複素平面で回転するベクトル

上記の回転するベクトルイメージにおきまして, 位置ベクトル $\overrightarrow{a}$ は以下のように表せます.

$$ \overrightarrow{a} \, (x, y) = \left( A_m \, \cos \, ( \omega t + \varphi), \, A_m \, \sin \, ( \omega t + \varphi) \right) $$

x軸, y軸はこちらで勝手に決めた軸の名前なので, 本来何と呼ぼうと自由です. 横軸, 縦軸と呼んでもいいですし, 陽軸, 陰軸でも構いません.

数学の世界には回転を表すのに便利な座標系があります. 「実軸と虚軸」の2つの軸で張られる「複素平面」という座標系なのですが, 今回はこれを使って正弦波を表してみましょう.

複素平面については詳しくは → 複素平面と複素数の基本性質

図 位置ベクトルを複素平面上に表示

複素平面内にあるベクトル $\overrightarrow{a}$ を複素形式で書くと, こうです.

$$ \overrightarrow{a} = A_m \, \cos \, ( \omega t + \varphi) + j \, A_m \, \left( \sin \, ( \omega t + \varphi) \right) $$

更に, 複素数の必殺技「オイラーの公式」を使って上式を書き換えると, こう.

$$ \overrightarrow{a} = A_m \, exp ( j \omega t ) \cdot exp ( j \varphi) $$

$\theta = \omega t + \varphi$ とおくと, 以下のように表すこともできます.

$$ \overrightarrow{a} = A_m \, e^{j \theta} $$

オイラーの公式について詳しくは → 複素指数関数の定義を考え、オイラーの公式を導出 (証明)する

正弦波を指数関数で表すことができました. 指数関数で表された正弦波を「正弦波のフェーザ表示(複素数表示)」と呼びます.

正弦波の変位 $a(t)$ とフェーザ表示した波は以下の関係にあります.

$$ a(t) = I_m \, ( \overrightarrow{a} ) = I_m \, \left( A_m \, exp ( j \omega t ) \cdot exp ( j \varphi) \right) $$

フェーザ表示の利点

フェーザ表示はベクトル表示と同様に, 同じ角周波数の波ならば, 波の足し合わせを単純な複素数の足し算に帰着できるので便利です.

また, フェーザ表示最大の利点は, フェーザ表示した波の式を微分, もしくは積分したときに関数の形が変わらないことです. 計算がとても簡単になります.

導入でも述べたように, フェーザ表示した正弦波はコイルやキャパシタを通過しても形が変わりません.

こんなことやっていいのか問題

本稿では

  1. 正弦波をベクトルで表す
  2. ベクトルで表された正弦波を複素平面に置き換える
  3. オイラーの公式で指数関数型に変換

という流れでフェーザ表示を導出したわけですが, 特に 2. の部分でこんなことをやっていいのか, という疑問が生じるのは至極当然でしょう.

ここでやっていることは「演繹的な導出」ではなく, 数学的に正しい論理によってフェーザ表示が導かれているわけではありません. ここで実行していることは「帰納的提案」です.

私たちはこれまで, xy平面上の座標を位置ベクトルで表したり, 世間知らずな自信家を井戸の底の蛙に例えたりと, 本来別物である2つを対応させ, 計算や本質の理解を容易にしてきました.

今回は「三角関数の正弦波」と「複素平面上で回転するベクトル」という本来異なるものを一対一に対応させ, 「こう考えると矛盾が無いし, 便利だからこう考えることにしよう」という「提案」です.

あらゆる場面でこう考えて問題が無いことは先人が示してくださっていますし, 便利なので随時使ってあげてください.

補:注意

今回, 正弦波が $a(t) = A_m \, \sin \, \theta $ と表されるとき, フェーザ表示とは

$$ \overrightarrow{a} = A_m \, e^{j \theta} $$

のことである. と述べましたが, フェーザ表示を

$$ \overrightarrow{a} = 2^{-1/2} \, A_m \, e^{j \theta} $$

と定義する場合もあります.

下の定義は「実効値」に対応しており, 複素電力を考えるときにはこちらの定義の方が計算が楽です. 故に分野によって定義が異なる. と.

分かりやすさ, という点では統一されているに越したことは無いのですが, 伝統ですね. 致し方無し.

「フェーザ」と言われたときは複素指数関数の前に付いている定数が何を表しているのか(振幅 or 実効値)に重々注意です.

まとめ

今回は正弦波のフェーザ表示を導出いたしました.

大変便利ですが, 複素数が入ってくるため理解が難しい概念です.

フェーザ表示を理解が難しいときは図を眺めましょう. 何度も図を眺めるうちに思い至ることもあるはずです.

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