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電信方程式:線路内の反射波について

投稿日:2020年12月2日 更新日:

前回は電信方程式の一般解を導出しました.

今回は一般解の中身を詳しく見つつ, 線路(分布定数回路)内で起きていることについて理解を深めて頂ければ幸いです.

電信方程式の解は2つの項の和で出来ており, それぞれ「入射波」, 「反射波」と呼ばれます.

なぜそう呼ばれるのか?そして, 反射波はどこから来るのか?が今回のメイントピックとなります.

復習:電信方程式とは

まずは前回記事で導出したことを簡単にまとめていきます. 詳しくは以下のリンクを参照して頂きたく.

架空線(いわゆる『電線』)や海底ケーブル, 同軸ケーブルなど, 内部を伝わる電圧(電流)の波形が, 部品(ここでは「ケーブル」)のサイズと同程度である回路を扱うとき, 部品内部の電圧(電流)分布は一様ではなく, 高校までに習った回路の知識では太刀打ちできません.

高校までに習った回路は, 「回路内部の電圧(電流)波形が部品内部で線形と見なせるような回路」 =「集中定数回路」でした.

海底ケーブルのような「大きな」回路部品を扱うためには『分布定数回路』という考え方が必要となります.

分布定数回路とは, 有限値で有限個の回路要素で構成されるわけではなく, 回路要素が空間的に薄く広く分布している回路です. 例として, L, C, R で構成される均一な電線は以下のような分布定数回路として表されます.

図1 分布定数回路

$r$, $\ell$, $c$, $g$ はそれぞれ単位長さあたりの抵抗, インダクタンス, キャパシタンス, コンダクタンスです.

原点Oからの距離を $x$ とすると, 分布定数回路内部の電圧 $v \, (x)$, 電流 $i \, (x)$ は以下の式を満たすことが導かれます.

\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array} \, \frac{ \mathrm{d} ^2}{ \mathrm{d} x^2} \, v \, (x) = \gamma ^2 \, v \, (x) \\ \, \frac{ \mathrm{d} ^2}{ \mathrm{d} x^2} \, i \, (x) = \gamma ^2 \, i \, (x) \end{array} \right. \; \cdots \; (1) \\ \rm{ } \\ \rm{ } \, \left( \gamma ^2 = zy \right) \end{eqnarray}

ここで, $z=r + j \omega \ell$, $y= g + j \omega c$, $j$ は虚数単位, $\omega$ は入力電圧信号の角周波数です.

式(1) は電信方程式(telegraph equation, またの名を「伝送線路方程式」)と呼ばれます. 物理学でしばしば登場する波動方程式と全く同じ形をしています.

式(1) の一般解は以下.

\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array} \, v \, (x) &=& A \, e^{- \gamma x} \, + \, B \, e^{ \gamma x} \\ \, i \, (x) &=& z_0 ^{-1} \; \left( A \, e^{- \gamma x} \, – \, B \, e^{ \gamma x} \right) \end{array} \right. \; \cdots \; (2) \\ \rm{ } \\ \rm{ } \, \left( z_0 = \sqrt{ z / y } \right) \end{eqnarray}

一般解の表し方は指数関数型と双曲線関数型がありますが, ここでは指数関数型で表しています.

$z_0$ は「特性インピーダンス」という名前が付けられており, 後で大事になる概念です.

また, $\gamma$ (伝搬定数 or 複素減衰定数)を $\gamma = \alpha + j \beta$ ($\alpha$, $\beta$ は実数)と分解して, $\alpha$ を減衰定数, $\beta$ を位相定数 と呼びます.

これら文字の名前にはちゃんと意味があります. 後程詳しく説明することと致しましょう.

ここまで復習でした.

入射波と反射波

電信方程式は時刻に依存しません. 原点からの距離のみで電圧・電流の波形を表したものです.

時刻を加えたものが以下になります.

\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array} \, v \, (t, x) &=& \, \left( A \, e^{- \gamma x} \, + \, B \, e^{ \gamma x} \right) \, e^{j \omega t} \\ \, i \, (t, x) &=& z_0 ^{-1} \; \left( A \, e^{- \gamma x} \, – \, B \, e^{ \gamma x} \right) \, e^{j \omega t} \end{array} \right. \; \cdots \; (3) \end{eqnarray}

言ってませんでしたが, 電信方程式中の電圧, 電流はすべてフェーザ表示です. よって, 現実世界で観測される電圧, 電流の形を表しているわけではありません.

$A=|A| \, e^{j \phi _A}$, $B=|B| \, e^{j \phi _B}$, $z_0 =| z_0 | \, e^{j \theta}$ とすると, 現実世界で観測される電圧・電流の波形は以下のように表されます.

\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array} \, v \, (t, x) &=& \, \sqrt{2} \, |A| \, e^{- \alpha x} \, \cos{ \left( \omega t – \beta x + \phi _A \right) } + \sqrt{2} \, |B| \, e^{ \alpha x} \, \cos{ \left( \omega t + \beta x + \phi _B \right) } \\ \, i \, (t, x) &=& \sqrt{2} \, |A / z_0 | \, e^{- \alpha x} \, \cos{ \left( \omega t – \beta x + \phi _A – \theta \right) } – \sqrt{2} \, |B / z_0 | \, e^{ \alpha x} \, \cos{ \left( \omega t + \beta x + \phi _B – \theta \right) } \end{array} \right. \; \cdots \; (4) \end{eqnarray}

波のフェーザ表示と三角関数表示の関係について詳しくは以下をご参照ください.

電流も電圧も似たような形をしているので, 電圧のみ考えます. フェーザ表示された複素電圧との混同を避けるために, 現実世界で観測される電圧(電流)については, 以後「実電圧(実電流)」と呼称することにしましょう.

分布定数回路内部の実電圧は 第1項 $\sqrt{2} \, |A| \, e^{- \alpha x} \, \cos{ \left( \omega t – \beta x + \phi _A \right) }$ と 第2項 $\sqrt{2} \, |B| \, e^{ \alpha x} \, \cos{ \left( \omega t + \beta x + \phi _B \right) }$ の波の足し合わせで表されています.

とある時刻における実電圧の第1項, 第2項を, 位置 $x$ に対して表示すると, それぞれ以下のような形になります.

図2 とある時刻における実電圧の第1項(左), 第2項(右)の波形

また, 実電圧の第1項の時間変化を追ってみたいと思います.

実電圧の第1項について, $x$ 軸に原点からの距離 $x$, $y$ 軸に電圧の瞬時値, $z$ 軸に時刻を取って表示してみます.

図3 $ e^{- \alpha x} \, \cos{ \left( \omega t – \beta x + \phi _A \right) }$ の時間変化

時間経過に対し, 波形は $x$ の正の向きに移り行くことがお分かり頂けたでしょうか. このことから第1項は「入射波」もしくは「前進波」と呼ばれます.

一方, 第2項について, 先ほどと同様の軸を取って表示すると, 以下のようになります.

図4 $ e^{ \alpha x} \, \cos{ \left( \omega t + \beta x + \phi _B \right) }$ の時間変化

こちらは時間経過に対して $x$ の負の向きに移動していることが分かるかと. この波を「反射波」と呼びます. 「後退波」とはあまり呼ばないようです.

以上まとめると, 均一な分布定数回路の中を伝搬する電圧は「入射波」と「反射波」の足し合わせになっていることが分かります. 電流も同様です.

音波や海面の波と同様, 分布定数回路における「反射波」も異質なものにぶつかったときに生じます.

線路定数の意味

ここまで来ると, 線路定数 $\alpha$, $\beta$, $z_0$ の意味するところが分かってきます.

$\alpha$ は波(入射波 or 反射波)が単位距離進んだとき, 波の振幅がどれだけ減衰するか, を表します. そのため, 名前もそのものズバリ, 減衰定数です.

$\beta$ は波の初期位相を決めます. こちらもそのままです.

$z_0$ (特性インピーダンス)の定義は均一な分布定数回路内部における 「(単位長さあたりのインピーダンス / 単位長さあたりのアドミタンス)の 1/2乗」 です.

$$ z_0 = \left( z \, / \, y \right) ^{1/2} \; \cdots \; (5) $$

また, 特性インピーダンスの大きさは 「線路内のとある位置における電圧と電流の大きさの比」になっています.

$$ | z_0 | \, = \, | v \, (x) | \, / \, | i \, (x) | \; \cdots \; (6) $$

「結局, 特性インピーダンスとは何なのか」 という問いに一言で答えることは難しいのですが, 大まかに言えば, 「線路内のある一点における電圧と電流の比」と言えるかと. もちろんこれは正確な表現ではありません.

特性インピーダンスは「反射」や「整合」を考えるときに大切になります. どう大事になるのか, 以下で解説します.

数式で眺める反射波

折角方程式とその解があるので, 数式を使って反射波について詳しく考えていきます.

本章の目的は反射波の起源を考え, どういうときに反射波が生じ, どういうときに生じないのかを考えることです.

任意点の反射係数とインピーダンス

反射波について考える前準備をしましょう. とある地点 $x$ における電圧の入射波と反射波の大きさの比を, 反射係数 $m$ とします.

$$ m \, (x) = \frac{B \, e^{\gamma x}}{A \, e^{- \gamma x}} = \frac{B}{A} \, e^{2 \gamma x} \; \cdots \; (7) $$

反射係数の大きさが 1 より大きいということは反射波の大きさの方が入射波より大きい場合を表し, 1 より小さいということは反射波の方が小さい場合を表します. また, $m \, (x) =0$ とは, 反射波が存在しないことを表します.

式 (2) より, 電流の反射係数は $- m \, (x)$ です.

また, 任意点のインピーダンス $z \, (x)$ を以下のように定めます.

$$ z \, (x) = \frac{v \, (x)}{i \, (x)} = \frac{A \, e^{- \gamma x} \, + B \, e^{\gamma x}}{A \, e^{- \gamma x} \, – B \, e^{\gamma x}} \, z_0 \; \cdots \; (8) $$

反射が存在しない場合

式 (7), (8) より, 任意点における反射係数とインピーダンスの間には以下のような関係が成立します.

$$ m \, (x) = \frac{z \, (x) \; – z_0 }{z \, (x) \; + z_0 } \; \cdots \; (9) $$

反射波が存在しないということは, 「すべての $x$ について, $m \, (x) =0$」ということです. 式 (9) より, そうなるための必要十分条件は,

$$ z \, (x) = z_0 \; \cdots \; (10) $$

となることだと分かります. つまり, 線路(分布定数回路)内の各点におけるインピーダンスが特性インピーダンスと等しければ反射は生じません. 逆に言えば, 反射のない分布定数回路では, どの点から受端側を見ても, そのインピーダンスが特性インピーダンスと等しくなります.

負荷接続時の反射:インピーダンスマッチング

次に, 均一な分布定数回路に任意の負荷を接続した場合を考えます.

ここでは終端($x=L$)にインピーダンス $Z_T$ を接続した分布定数回路を考えましょう.

式 (9) より, 負荷を接続した点($x = L$)におけるインピーダンスと反射係数の関係は以下のように表されます.

$$ m \, (L) = \frac{Z_T \; – z_0 }{Z_T \; + z_0 } \; \cdots \; (11) $$

負荷が開放されている場合, $Z_T$ の大きさに比べて $z_0$ は無視できるほど小さいので, $m \, (L) = 1$ になり, 負荷が短絡されている場合には $m \, (L) = -1$ となります.

そして $Z_T = z_0$ の場合には $m \, (L) = 0$ になります. このとき負荷は線路に「整合」していると呼びます. 線路と負荷を整合させると, 負荷の線路の接続点において反射波が生じず, エネルギーを効率的に負荷に届けることが可能です.

「効率的なエネルギーの送信のために負荷を整合させること」を「インピーダンスマッチング」と呼び, 特に電気的な計測で重要になります.

テレビに信号を伝達する同軸ケーブルなどにおいてもケーブル内に反射波が生じないよう, ケーブルの特性インピーダンスとテレビの入力インピーダンスは 「$50 \Omega$」や「$75 \Omega$」 に統一されています.

まとめ

以上, 電信方程式と反射波についてでした.

時間と空間と振幅の3軸で波を表示すると, どちらに動いているかが分かりやすくて, 波の動きのイメージを掴む手がかりになった記憶があります.

波を数学的に表現すると, 複素数や時間, 空間が入り混じるため理解が難しくなりますが, それぞれの文字が何を意味しているか, を抑えることが理解のポイントではないかと感じました.

もう少しだけ分布定数回路についての話を続け, 次回は分布定数回路のF行列やS行列に触れたいと考えています.

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